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心肺蘇生四方山話

AEDのパッドを貼る際に気を付けること②

こんにちは。日本医療向上研究所の貞廣です。

心肺蘇生四方山話 第十四回では、前回の「AEDのパッドを貼る際に気を付けること①」の内容を詳しく解説してまいります。

これまで「人工呼吸」「胸骨圧迫」についてのブログも書かせていただいておりますので 合わせてご覧いただけますと幸いです(過去のブログはこちら)。

―AEDのパッドを貼る際に気を付けること②―

今回も前回に引き続き パッドを貼る際に気をつけることの理由を解説していきます。
>>前回のブログはこちら

電気はその性質上、たとえ遠回りをしてでも なるべく抵抗の少ない、流れやすいところを選んで流れます。このため、前回挙げた5つの一般的な注意点のうち1.水に濡れていないか、と2.ネックレスなど金属を身につけていないか、についてはそれぞれ水、金属という生体よりも抵抗がとても少ない、電気が流れやすい物質であることから、電流を心臓に流したいのに、これら抵抗の少ないものの方に流れてしまう可能性があるために注意が必要だ、ということを強調したものです。実際に除細動を行う場合には前もって「水を拭く」「ネックレスは外す」という処置が必要だと、一般的には言われています。

ただ、雨の日に濡れた地面に人が倒れた場合、拭くといってもどこまで拭けばいいの?ということになります。皮膚に触れている衣服がびしょびしょ、という状況では、しっかり前胸部全体を拭くまで除細動を行うことはできませんが、倒れた直後で体は濡れておらず、厚着をしていて衣服も中までは濡れていなければ、そして傘をさして新たに濡れることはないようにしておけば、すぐに通常の対応も可能です。とにかく電流が心臓をきちんと通ってくれればOKです。

ネックレスも同様で、放電の際に電気の流れを短絡する可能性がなければ身に付けていても問題はなく、外さなければとにかくダメ、というものではありません。ただし、容易に位置が変わりやすく、その一部が水についていたりすると電気がどう流れるかは予想できないので、安易に“外さなくてもいいですよ”と言っているのではありません。誤解のないようにお願いします。

次に3.貼付薬を貼っていないか、についてですが、一般には必ず剥がすように指導されます。というのも、経皮吸収型狭心症治療剤のニトログリセリンを使った貼付薬の上にパッドを貼って除細動をかけると、爆薬の原料でもあるニトログリセリンが爆発して(ちょっと表現が大袈裟かな?)炎が上がる、とも言われています(残念ながら?私は見たことがありません・・・)。

AEDが登場した2004年頃には、貼付薬というと経皮吸収型狭心症治療剤(ニトロダームTTS®️)くらいしかありませんでしたので、AEDのパッドを貼る際には貼付薬は必ず剥がす、と指導していました。現在では鎮痛やニコチン、ホルモン剤などなど様々な貼付薬が用いられていますが、ニトログリセリン製剤以外には電気を流して爆発するような薬剤が使われている貼付薬はありません。このため何の製剤が貼ってあるのか分かっている患者さんの場合には気にしなくていい気もしますが、パッドの一部に貼付薬が重なっていると電流を受け止める生体の抵抗が変わりますので、効果が落ちる、パッドの当たっていた皮膚の一部がやけどする、といったトラブルが生じる可能性があるため、パッドが貼付薬にかかってないことは必ず確認しましょう。この理由については次の項で説明します。
見た目ではすぐに何の製剤かが分からないことも多いので、やはり“必ず剥がす”ことにした方が安心ですね。

4.胸毛を避ける、避けられないときは剃ってから貼付する、ということも重要です。これは除細動を行う際はパッド全体を皮膚にしっかりと密着させる、という手技と繋がっています。

除細動をかける際にかなりの電流が流れることは前々回のブログでお伝えした通りです。この際きちんと全体が密着していないと、パッドと皮膚の間の抵抗が増加して、その分熱が発生するので皮膚がやけどしてしまいます。

(除細動器のパドルを用いて除細動を行う場合、昔はDefibration Pads®️といったような洒落たゼリー状のシートはなかったので、よくキシロカインゼリーなどを塗って除細動を行っていましたが、慌てたせいでゼリーが均等にしっかりと塗られていないと局所的にやけどをさせてしまっているのを見た覚えがあります。)

日本のAEDのシェアが最も大きい日本光電に確認したところ、AED自体がこの抵抗を測定していて、一定値以上の場合にはパッド外れと認識して除細動しない、ということが起こるそうです。また、規定のエネルギー(初回は150J、2回目は200J)を出力するために、抵抗に応じてパルス幅(エネルギーを出力している時間)を調整しているそうです。ただしこの調整だけでは対応しきれず、きちんとパッド全体が密着していないと心臓を流れる電流が減ってしまう、というトラブルが起こりえます。このため除細動を行なってもその効果が落ちる可能性があります。胸毛も、パッドが貼付薬にかかってしまった場合も、このようなことが起こりますのでやはり避けるべきです。

5.パッドをペースメーカーから離して貼る、についてですが、ペースメーカーの本体の上から除細動を行うと、ペースメーカーが誤作動するおそれがあるのだそうです。これも私は直接体験したことはありません。壊れた場合、装置そのものも相当な値段ですし、これを再挿入することまで考えると300-350万円くらいの費用がかかるそうです(Medtronic社のHPより)。このため、ちょうど右の前胸部にパッドを貼付する場所にペースメーカーと思われる皮膚の膨隆があった場合(金属で出来ているためかなり硬く、丸みを帯びています)、なるべく(およそ3cm)離すように心がけましょう。本体から離して除細動を行う場合は機器にほとんど影響はないそうです。

AEDの訓練ではパッドの粘着力が弱くなってしまっているものがあり、密着させられないことがあったかもしれません。これはコスト的にやむを得ないところが多々ありますが(笑)、実戦ではぜひ密着を心がけましょう。

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株式会社 日本医療向上研究所
代表 / 医師 貞廣 智仁

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