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心肺蘇生四方山話

人工呼吸は なぜ1秒なのか?

こんにちは。日本医療向上研究所の貞廣です。

心肺蘇生四方山話。本日は第三回目となります。
今日のテーマは「人工呼吸は なぜ1秒なのか」。是非最後までお読みください。

―人工呼吸はなぜ1回0.5秒や1.5秒ではなく、1秒なのか―

前回の第二回では「”胸骨圧迫15回に人工呼吸1回”よりも “胸骨圧迫30回で人工呼吸2回”の方が、より高い血圧を維持して胸骨圧迫ができることから、30回の方がより良さそうだ」というお話をしました。
>>第二回のブログ「胸骨圧迫は なぜ30回続けるのか?」

このため人工呼吸は2回連続で行うことになります。この2回の人工呼吸は 1回約1秒で行うことが日本蘇生協議会の蘇生ガイドライン2020で推奨されています。

ではなぜ 1回約1秒なのでしょうか?

実はこの時間に明確な科学的根拠はありません。ただし確実に言えることは、1回0.5秒ではなく、1.5秒でもない、ということです。

人工呼吸として バッグバルブマスクなどを用いて換気をすると、(たとえ酸素がつながっていなかったとしても、空気中の21%の)酸素を肺に送り込めること、体内で不要になった二酸化炭素を呼気とともに体の外に出すことができること、といったメリットがあります。

ただ、これを行うことで実はデメリットもあります。

普段私たちが息を吸う際に、肺に空気を取り込むと同時に 胃にも空気を入れるのは至難の業ですよね?ただ、人工呼吸のように口や鼻から圧力をかけて空気を押し込む場合には、息を吸う場合と異なり 肺だけでなく胃にも容易に空気を送り込んでしまいます。

そして胃に送られた空気は、ある程度溜まると十二指腸の方に進むだけでなく、胃の内容物とともに逆流してきます。いわゆる嘔吐です。空気だけ逆流すれば大した問題はないのですが、内容物には胃液が混じっていますので、強い酸が含まれています。

さらに 蘇生の際は仰向けに寝ていますので、吐物は容易に気管に流れ込みます。つまり“誤嚥”です。空気を押し込むタイミングで嘔吐が起これば、送り込んだ空気でわざわざ吐物を肺に押し込むことにもなりかねません。強い酸を含んだ吐物が肺に入ると、単に食べ物が間違って気管に入ってしまう“誤嚥”に比べて、より厳しい肺炎、化学性肺炎が引き起こされます。

ではどうやったらこの胃に送り込んでしまう空気を減らすことができるのでしょうか。

その一つの解決策として「ゆっくり換気する」という方法があります。

解剖学的に、気管は気管軟骨が輪になって存在するため、もともと筒のような形をしていて、空気が入ってくるのを待ち構えています。特に何かを開く必要はありません。これに対して、食道は気管と別れる喉頭のところから胃に至るまで粘膜でできていますので、基本的にお互いがくっついています。

特に喉頭の食道の入り口は普段は閉じた状態です。(胃の内視鏡検査を見ていると、ここを通過する際に閉じているのがよく分かります。)このため、胃に向かって空気が送り込まれるには、ここを開く必要があるためにある程度の圧力が必要になるのです。つまり人工呼吸の際になるべく圧力を上げないようにすることで、食道への通り道をなるべく開けないように工夫することができます。

人工呼吸による換気で圧力を上げないようにするために、方法は二つあります。

一つ目は「ゆっくり換気すること
二つ目は「換気の際に 送り込む空気を少なくすること(たくさん入れないこと)」

です。

ゆっくり換気することで、なるべく圧力を上げずに空気を肺に入れることが可能になる訳です。なので、0.5秒よりは1秒、1.5秒の方が良い、ということになりますね。

ただ、第一回のブログで「人工呼吸で口から肺に酸素を送るよりも、胸骨圧迫で肺から全身に酸素を届ける方がはるかに難しい」ことをお伝えしました。なので、人工呼吸にいくらでも時間をかけて良いわけはなく、できるだけ多くの時間を胸骨圧迫に割きたい、ということを考えなくてはなりません。

以上から、実際にバッグバルブマスクをゆっくり握って換気する、現実的な時間として“約1秒”が設定されたのではないかと考えています。なかなか難しい内容でしたがご理解いただけたでしょうか?

人工呼吸による換気で圧力を上げないようにするための二つ目の方法、「換気の際に送り込む空気を少なくすること」については次回解説したいと思います。お楽しみに。

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第二回は 以下の日程で開催いたします。
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また、急変対応セミナーの開催やご相談などございましたら、お気軽にご連絡をお待ちしております。

株式会社 日本医療向上研究所
代表 / 医師 貞廣 智仁

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