心肺蘇生の最初に胸骨圧迫から始めるのはなぜ?①

こんにちは。日本医療向上研究所の貞廣です。
心肺蘇生四方山話シリーズ。
これまで「人工呼吸」「胸骨圧迫」「AED」についてのブログを書いてまいりましたが(過去のブログはこちら)、 第十五回では、「心肺蘇生の最初に胸骨圧迫から始めるのはなぜ?」をテーマにお話させていただきます。
心肺蘇生四方山話 第十五回
―心肺蘇生の最初に胸骨圧迫から始めるのはなぜ?①―
今回のタイトルを見て、「心肺蘇生は2回の人工呼吸からでしょ!」と思った方は、かなり昔に技術を習得してその後アップデートをしていないものと思われます。実はBLS(Basic Life Support)で心肺停止を確認した後に、まず“胸骨圧迫”から始める方法は 2010年のガイドライン改訂後に行われるようになったものです。
「突然人が倒れた」「具合の悪い人を発見」したら、まず “反応の有無をチェック”、反応がなければナースコールや大声で “院内の急変コールをしてもらう、AEDと救急カートを持ってきてもらう”、という流れは以前から同じだったのですが、2010年以前は その後 “呼吸の有無を確認” するために頭部後屈あご先挙上法で気道確保(A: airway)を行いながら、耳と頬を口元に近づけて、目で胸とお腹のあがりを見て呼吸を確認(いわゆる “見て” “聞いて” “感じて”)、医療関係者であれば同時に頸動脈を触れて脈も確認、呼吸と脈ともに “ない” ことを確認して心肺停止と判断したら、次に2回人工呼吸(B: Breathing)を行ったのちに胸骨圧迫(C: Circulation)を行っていました。つまり当初BLSはA→B→Cの順番で対応していたのです。
このやり方がガイドライン2010で大幅に変更され、今の “まず胸骨圧迫” から始めるC→A→Bの順番になりました。
ではなぜこのような変更が行われたのでしょうか。
しっかり気道確保をして空気の通り道を作り、人工呼吸で空気中の酸素を肺に送り、そして胸骨圧迫で肺の中の酸素を血流に乗せて全身に運ぶという もともとのA→B→Cの順番は、全身(特に脳)に酸素を確実に送り届けるという意味でとても理にかなった方法であるはずです。これに対して胸骨圧迫から始めてしまうと、肺から運び出すための酸素がそもそも肺の中にはないのでは?という疑問が湧きますね。
これに対する答えの一つとして、突然の心停止の場合には おそらく直前まで普通の呼吸をしており、“うっ!” と唸り声をあげて倒れる際に肺の中にはまだ酸素がしっかり残っているはず、というのがあります。C→A→Bのやり方はまずこの肺に残っている酸素を素早く全身に(脳に)送り出しましょう、という作戦です。
それ以外のC→A→Bのメリットを考えてみましょう。人工呼吸を行うために病院の中では通常バッグバルブマスクを使用しますが、これが急変時にすぐ手元にあることはほとんどなく、届くまでにしばらく時間がかかります。代わりに口対口呼吸を行うにしても、フェイスシールドなど、感染防護のための器具が必要となります。これも絶えず持ち歩いている方は少ないでしょう。もしA→B→Cの順番を律儀に守り、心肺停止状態の確認の後に、人工呼吸を行うための器具を持っていないからといって、まずはこれらの器具を取りに行った場合、蘇生の開始時間がだいぶ遅れることになり、胸骨圧迫はいつになったら開始されるの?という話になってしまいます。
これに対して胸骨圧迫は、感染防止の手袋さえあれば直ちに開始できる、というメリットがあります。気道確保と人工呼吸の手技については長いことやっていないから怪しい、でも胸骨圧迫はなんとかできます、という方は多いのではないでしょうか。
2010年にガイドラインが改訂される際に、胸骨圧迫から開始した方がよい、という明確な科学的なエビデンスがあったわけではないようですが、この変更を行ったことによって、2015年のガイドライン作成時においては、蘇生の重要な要素(人工呼吸開始、胸骨圧迫開始、最初のCPRサイクルの完了)までの時間が短いという結果が得られています。
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株式会社 日本医療向上研究所
代表 / 医師 貞廣 智仁